Tuesday 2 February 2010

2.ジミー再び

Himaraya mt.


朝焼けの中に広がるヒマラヤの山々。
ここは夜と昼のグラデーション。
天上に引きつめた白い絨毯。
その果てには丸い地球の淵が太陽に照らされている。
昨日と同じ景色がある。景色が変わるのではない。
景色は昨日から今日、そして明日へ移動しているのだ。
この地球が生まれてからずっと移動してきたのだ。
地球に聞いてみたい事がたくさんある。
君といつか語り合いたいと思った。


 僕はレー空港に降り立った時、ジミーにいきなり会いにいこうと思った。僕が先週日本からジミーに連絡を入れた時、いつかまたレーに行きたいけど何年後になるかわからないと答えた。でも僕はいろいろな巡り合わせで幸運な事に今、レーにいる。空港からジミーの家まで歩いていく事にした。緩やかな上り坂をひたすら歩き続ける。30分ほど歩いてレーの街に入っていく。この匂い、音、景色、すれ違う人々。前回と変わらずそれはそこにあった。一歩一歩確かめるように歩いていく。確かあそこの道を曲がって、まっすぐ行ったら本屋があり、そうそう、いい感じ。ロータリー式交差点を右に進み、そのまま坂道を上っていく。砂埃を巻き上げながら走っていく車の横を通り過ぎ・・。あっ、ちょっと息切れがしてきた。それもしょうがない。下界と比べここ3500メートルの高地では酸素が半分くらいしかないのだ。ちょっと大きく深呼吸して息を整え、また歩き出す。レーの街に入って30分、スカンパリ地区に入っていく。細い路地を歩いてジミーの家の門の前に立つ。門を入って階段を上り僕は玄関にたどり着く。

Leh

レーの路地は迷路だ。
右に左に右往左往。
迷う事は楽しい。子供に戻ってみた。
所詮人は迷いながら成長していくのだ。
迷わなければ見つけられないものもある。
人生と一緒なんてそんな事はあえて言わない。
でもどうやら僕は迷ったらしい。
そこの路地を右に曲がろう。
そこに僕は赤い一輪の花を見つけることができるだろう。


 僕はジミーの家の玄関の扉をたたく。とんとん。反応がない。もう一度たたく。今度はもっと強く。どんどん。すると、
「ちょっと待ってくれ。」
奥から声が聞こえた。まるで寝起きのようなくぐもった声だ。その声が聞こえてちょうど1分35秒後に玄関の扉が開いた。
「×△□○?????」

「あの時のジミーの顔ったらなかったよ。まるで、狐につままれたような顔してた。」
「狐?フォックス?ホンジョはおかしな事をいうな。フォックスは人を騙さないぜ。」
「日本では狐は人を騙すものなんだ。昔からそうさ。今でも魑魅魍魎いろんな狐が人をだまし続けているニュースで、新聞一面は毎日にぎわっているよ。」
「とにかく突然の訪問で本当に驚いたな。びっくりして、この再会を神に感謝したよ。」
ジミーはそう言うと僕をリビングに通した。

 玄関の扉が開いてでてきたジミーは、驚きと畏怖と眠気とかいろんな形容詞、動詞を手でもんで乱雑に混ぜて、二階の窓から路地にそれをぶちまけたような顔をしていた。その時の第一声は
「×△□○?????。おーアラーよ。何が×△□○!!」
僕には何を言ってるかよくわからなかった。

 リビングではジミーの一番下の子供アクタルが、僕を出迎えてくれた。僕はアクタルが僕を呼ぶその名前の発音が大好きだった。頭にイントネーションを置き、延ばすのだ。
「ホーンジョ」「ホーンジョ」
僕がアクタルを抱き上げるとアクタルは左手で僕の髪の毛をくしゃくしゃにした。そう、左手で・・。

 アクタルがまだ乳のみ子だった冬のある寒い日。ストーブの前でお母さんのクルスンに抱っこされて腕の中で、すやすやと眠っていた。そしてクルスンもそのまま寝てしまった。それが失敗だったのだ。あろうことかクルスンの腕からアクタルが転がり落ち、右肩からストーブに突っ込んでしまった。クルスンは、泣き叫びながらぐったりとしたアクタルを抱いて病院に駆け込んだ。一命は取り留めたものの、アクタルの右半身は不自由になってしまったのだ。

child

アクタルの笑顔はみんなを和ませる。
そんな気がする。
アクタルの声はみんなを楽しくさせる。
そんな気がする。
アクタルが動くとみんなが幸せになる。
そんな気がする。
アクタルがいると世界が平和になる。
いつか必ずそうなる気がする。


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