Saturday 20 February 2010

20.カルギルにて

 カルギルに入り、バタリク村から乗せてきた労働者をおろす。その時ジミーの携帯が鳴った。ジミーが携帯に向かって一言二言話すと、僕に携帯を渡した。
「久しぶり!元気!!」
「えっ、誰?誰?」
「サダだよ。サダ。」
「あー、サダ、元気元気。今、どこに居るの?」
「今、カルギルに来てる。」
 サダと言うのはジミーの奥さんクルスンの弟で、声を聞くのはレーでジミーの車を洗いに行った時以来だった。
「今から、カルギルのタクシースタンドで落ち合おう。」
「了解。」
 僕とジミーはタクシースタンドに向かった。車がメインバザールに入る。クラクションの音、車の間を行き来する人波、舞う砂ぼこり、僕はこの光景を見て、ラダックとカシミールを結ぶ人と物の流通の拠点、カルギルにやって来たんだという実感があふれていた。街の喧噪をかき分けるように車はバザールを走り抜けタクシースタンドに辿り着く。

Kargil town

カルギルのメインバザール。
物物、人人、物物、人人。
静寂の世界から混沌の世界のギャップ。
大自然の中のカオス。
アザーンの声も人ごみと喧噪にかき消されていた。


 僕らは車から降りると、あの人懐っこい満面の笑顔でサダが待っていた。僕とジミーとサダは近くのホテルに併設してあるレストランで昼食を取ることにした。サダは長距離観光バスの運転手で、カルギルの街のエキスパートなのだ。僕はサダに聞きたい事があったのでバトゥーをついばみながら聞く。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいんだ。どこでとれるかなぁ?」
「ディストリクト・オフィスでとれるんじゃないかな。」
 サダはチキンにかぶりつきながら答える。僕は指についたマサラとライスを一本づつ舐めながら
「場所を教えてくれないか?」
 とお願いすると、サダは手でバトゥーライスをかき混ぜながら
「ランチが終わったら一緒に行こう。」
 と言ってくれた。僕はバトゥーライスを手ですくいあげながら、
「オーケー、ありがとう」
 と答えて、それを口に放り込んだ。

Kargil town

カルギル・ジャミー・マスジド。
カルギルのメインマーケットそばのマスジド。


 僕らは食事が終わるとディストリクト・オフィスに向かった。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいのですけど。」
 書類に目を通していた役人は眼鏡を鼻先にずらして上目遣いで僕を見ると、一言。
「マジストレイト・オフィスに行ってくれ。」
 と言われたので僕らはディストリクト・オフィスを出てマジストレイト・オフィスに向かう。マジストレイト・オフィスはカルギルから5分ほどの隣のバルー村にあった。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいのですけど。」
 あごにひげを蓄えた役人は上目遣いで僕を見ると、一言。
「××××・オフィスに行ってくれ。」
 と言われたので僕らはマジストレイト・オフィスを出て××××・オフィスに向かう。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいのですけど。」
 けむくじゃらの腕を持った役人は上目遣いで僕を見ると、一言。
「○○○○・オフィスに行ってくれ。」
 と言われたので僕らは××××・オフィスを出て○○○○・オフィスに向かう。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいのですけど。」
 分厚い胸板を持った役人は上目遣いで僕を見ると、一言。
「△△△△・オフィスに行ってくれ。」
 と言われたので僕らは○○○○・オフィスを出て△△△△・オフィスに向かう。
「チクタンエリアのパーミットを取りたいのですけど。」
 まるまると太った役人は上目遣いで僕を見ると、一言。
「ディストリクト・オフィスに行ってくれ。」
 僕は両手でオフィスの机を思いっきり叩いた。役人は「ファット?」と言いながら立ち上がったが、サダとジミーが止めに入って事なきを得た。

Kargil town

カルギルのメインストリートの真裏にある、
ヨーク・チョス・ダス地区。
美しい閑静な村が広がっている。
実を言うとカルギルは見所だらけ。
美しい村の集合体がカルギルであり、
その中心にメインバザールがあるのだ。
カルギルをメインバザールだけで、
この美しいバックヤードの村々を見ずして通過してしまうのは、
飛行機でラダックに来て、飛行場だけ見て帰るのに等しく、非常にもったいない。
カルギルと言うのはカルギルを形作っている、
周りの美しい村々の事なのだ。


 ディストリクト・オフィスの机を挟んで僕たちと眼鏡を鼻の上にかけた役人が椅子に座っている。役人が再び口を開く。
「何度も言うがチクタンエリアの入境は許可できない。」
「どうしてですか?」
「あそこは危険だ。」
「??」
「あそこは危ない。」
「どう危険でどう危ないのですか。」
「あそこはテロリストが出る。」
「テロリスト?サダ、あそこにテロリストでたことあるか?」
 チクタンエリア在住のサダは、
「ない。」
 と一言。役人は鼻先をかきながら
「外国人観光客が誘拐された事がある。」
「誘拐?サダ、あそこで外国人が誘拐されたことあるか?」
チクタンエリア在住のサダは、
「ない。」
 と一言。役人はため息をつきながら
「パーミットを出した前例がない。帰った、帰った。」
 と言われ、僕らは取り付く島もないという感じで追い返された。

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