Wednesday 17 March 2010

42.スリナガルの夕暮れ

 僕たちはハウスボートに戻ってきた。ジミーはベッドに倒れ込むと同時に寝息をたて始めた。当たり前だ、30時間以上寝ていないのだ。タフネスの電池は30時間以上保ったのだ。そこらへんの携帯電話よりよっぽど長持ちする。
 僕はマーケットを散策してくるとクルスンたちに言い残し出かける。ジェラム川沿いを歩いている。夕日がとても奇麗だった。異国でみる夕日は格別だ。この夕日は3時間以上前にとっくに日本では沈んでいるのだ。当たり前なのだが、その日本で見られる過去の夕日が今度はここスリナガルで見られると思うと、改めて地球はまんまるなんだなと思う。夕日に照らされて全ての物質が影になる。実体があやふやになると、世界との境界が分からなくなり、目の前に広がっている景色が、たちどころに溶け出して、夢と現実の狭間で僕は溺れ出し始めた。

Jhelum river

ジェラム川。

Jhelum river

ジェラム川の夕暮れ。
異国の美しい夕暮れ。


 僕はスリナガルのマーケットを歩いている。夕暮れ時にもなると人々は一斉にマーケットに繰り出す。それは世界中どこの街でもある現象だ。服屋。電気屋。食料品。本屋。絨毯屋。食器屋。楽器屋。レストラン。ティーショップ。どこにでもある光景だ。ただ一点を除けば。店舗が沢山入っているビルが立ち並ぶ。古いビルが多い。ビルを見上げると上の階がことごとく爆弾で吹っ飛ばされているのだ。だいたいガラスがこなごなになっていて、壁は黒こげになっている。マーケットの道も吹き飛んで大きく穴があいたままになっているところがある。大きな交差点には装甲車や塹壕があり、数多くの軍人が必ず銃を持って立っている。それでもここには普段と変わらない生活がある。人々は昼は仕事をして、学生は学校に行く。夕方になると人々はマーケットに繰り出し、買い物をしたり、食事をしたり、たまには映画も見る事もあるだろう。普通の生活の中にテロが同居しているというのか、テロの中に普通の生活があるというのか、テロの理念、思想は僕には分からないが、恒久化しているこの悪循環の輪廻は、永久運動のようなもので、動き出したら決して止める事ができない火のついた車輪なのか。憎悪が憎悪を呼ぶ事はみんな分かっているのだが、どうにもならないのだ。そこにはジレンマが深く渦巻いている。スリナガルは表向きは元気でも、内面は疲弊しているのだ。スリナガルにはマスジドが多い。僕は平和への思いとマスジドの数は比例をしているのように感じた。

Srinagar shop

メインマーケットのビル。
破壊された三階部分。


Srinagar

メインマーケットの道。

Srinagar building

メインマーケットのビル。

 僕はハウスボートに戻る事にした。ハウスボートの近くに雑貨を扱っている小さな店がある。僕は店の主人と話をした。スリナガルのテロについてだ。
「テロはビジネスだ。」
と雑貨屋の主人はうそぶいてみせた。そして付け加えてこうも言う。
「スリナガルはインド軍が守っているので完全に安全だ。でもスリナガル郊外はインド軍は守りきれないので非常に危険だ。毎日の様にテロが起こっている。」
「ありがとう」
 僕はそう言うと、安心半分、不安半分のままハウスボートの中に入っていった。

 ジミーは目を覚ますと、腹が減ったと言い出し、みんなでメインバザールに行き夕食を食べる事にした。僕たちはしばらくマーケットをうろうろして、ラダッキの食堂に入る事に決めた。僕たちは食堂に入ると適当にオーダーをした。

Tukpa

トゥクパ。

Maton rice

マトンドライライス。

 夕食を食べ終え、僕たちはハウスボートに戻る。シャワーを浴びると、みんなはさすがに疲れたようでベッドに入ると深い眠りに落ちた。

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