Wednesday 10 March 2010

35.チクタン村の夜

 僕とジミーは車を進める。チクタン村手前の雑貨屋を通り過ぎるとき、僕は非常に嫌な予感が頭の中をよぎった。

Chiktan village

チクタン村近くの雑貨屋。
実を言うと、ここはあの弓名人の老人の家なのだ。
ここのすぐ向こう側に橋が架かっていて、
それを渡るとチクタン村がある。


「ジミー。なんだかすっごく大切な事を忘れてるような気がするんだが・・。」
「俺もさっきからなんか忘れてるような気がするなぁ・・。」
 僕とジミーは次の瞬間にある事を思い出すと、お互いに大きな声を上げ、顔を見合わせる。
「あっ、ラジーとの約束。」
 僕たちの顔は真っ青になった。なんてひどい事をしたんだとも思った。
 今日はラジーが午前中で学校を終えて、昼は彼女が昼食を作り、それをみんなで食べる約束をしていたのだ。
「ジミー、今何時?」
「18時30分」
「ダメだぁー」
 僕らは橋を渡ると車をチクタン村の入り口に止めてラジーの家に走る。

Chiktan village

清流サンジェルンマにかかる橋。

Chiktan village

夕暮れのチクタン・マスジド。
この真裏にラジーの家がある。


 案の定ラジーは怒っていた。しかもかなり怒っている。僕とジミーは部屋に閉じこもったラジーに扉越しに懺悔の語りをする。
「本当にすまなかった。」
「ごめん、僕たちは最低だ。」
「機嫌を直してくれよ。」
「ラジー、なんでもいうことを聞くから、言ってくれ。」
 等々、いろんな言葉を投げかけたが部屋からでてこない。あたりまえだ。悪いのは僕らだ。
 僕らはひとまずキッチンルームに戻って、最良の案を話し合う。ラジーが昼に作った料理をお母さんが暖めて出してくれた。4時間以上待ってたらしい。

Chiktan village

ラジーが作ってくれた料理。
料理名、チャシャ・スパグ。
懺悔・・・。


 それは本当にうまかった。ラジー渾身の料理だった。僕たちはどうしたら償えるかを話し合う。ジミーが提案をする。
「ラジーを避暑地に連れ出したらそうかなぁ、償いの印として。」
「学校とかは?」
「両親に許可を貰って連れ出すのさ。その時は俺のワイフのクルスンも一緒に。」
 クルスンはラジーのお姉さんなので、いいクッション役になってくれると思った。僕は答える。
「いいよ。避暑地ってどこよ?」
「スリナガル。」
 僕はその名前を聞いて驚いたのと同時に躊躇した。なぜならば、日本の情報誌が言うところに寄ると、スリナガルという街はインドでも有数の治安が悪い場所として伝わってきているからだ。毎日どこかで爆弾テロが起こっているとか、外国人がよく誘拐されるとか、伝わってくる内容はロクでもないものばかりだ。
 その事をジミーに言うと、彼はその事を一蹴して笑った。スリナガルはラダックの人たちにとっての本当の意味での避暑地なのだ。ラダックだけではなく、インド内陸部は今一番暑い時期なので、そこからも涼を求めてたくさんの観光客がやって来ていると言うのだ。僕は少し考えると、
「オーケー、そうしよう。ラジーが機嫌を直してくれるなら、それでいいさ。」
 この目でスリナガルを見てみたいという気持ちもあって、僕はそう答えた。
 ラジーの両親に僕たちの計画を話した。僕たちは両親から許可をもらった。お母さんにラジーを部屋から連れてきてもらった。僕とジミーはお母さんの助けももらいながら、誠意を持って僕たちがこれからラジーをスリナガルに招待したい事を話した。ラジーの顔が明るくなった。僕とジミーはその様子を見てほっとした。

Chiktan village

チクタン村最後の夕食の様子。

 明日一度レーに戻って、クルスンを拾って数日後にまた戻って来る事をラジーに伝える。それから僕はラジーに村の様子を聞きながら地図を作った。

Chiktan village

チクタン村の地図。

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