Sunday 14 March 2010

39.再々来訪チクタン村、そしてゾジ・ラへ

Chiktan village

チクタン村。
三回目の入村だ。
何度来てもいいところだなと思う。


 僕たちは夕方近くにチクタン村に到着した。みんなはラジーの家で休憩をする。ジミーだけはゲロだらけになった車を、チクタン川で掃除をしている。僕たちはアフタヌーンティーを頂く。少し心配していたが、ビッグヒップの顔色は良かった。僕はビッグヒップに声をかける。
「体調は大丈夫か?」
 するとビッグヒップは
「ファット?黙れ!」
 と言って眉間に皺をよせて突っかかってきた。僕は”おいおい何で突っかかってくんだよ。”と思うのと同時に、ビッグヒップはアジア系が嫌いなのか、はたまたただの頭のおかしい奴なんだろうと思って聞き流した。僕たちが彼女を後者だと気づくのにそんなに時間はかからなかった。

Chiktan village

チャパティ&バター。
疲れた体には一番いいかも。


 僕はジミーが洗車が終わるまで、チクタン村を散歩する。相変わらず静かで、美しい村だった。何日もここに滞在したのでチクタン村の人々とは仲良くなっている。
「また来たのかね。」
「はい。ラジーを連れてみんなでスリナガルに行くんです。」
「そうかい。あそこは美しいところなのでみんなで楽しんでらっしゃい。」
 そう言葉をかけられた。僕がカメラでチクタン村の姿を撮っていると、子供たちが僕の後ろをついてくる。僕は真後ろに振り返り、カメラを子供たちに向けると蜘蛛の子を散らすように逃げていく。僕がまた歩き始めると子供たちが後をついてくる。その繰り返しをしながら僕は遊んでいた。

Chiktan village

チクタン村の井戸。
飲料水として使用する、
村の大切な井戸だ。


Chiktan village

チクタン村の子供たち。

 ジミーが洗車を終えたので僕たちはラジーを車に乗せて、スリナガルに向けて出発した。カングラル・チェックポストをスリナガル方面へ車を進める。ナミカ・ラの峠に差し掛かる時ラジーが言う。
「みんなで、ここであのお祈りをしましょう。」
「僕知らないよ。」
「私たちがゆっくり唱えるので、その後について来てね。」
 みんながお祈りをユニゾンする。
「アラー・フマ・ソアレ・アラー・モハンマッ・ワーレー・モハンマ」
 僕も後に続く。
「アラー・フマ・ソアレ・アラー・モハンマッ・ワーレー・モハンマ」
 みんなで繰り返す。
「アラー・フマ・ソアレ・アラー・モハンマッ・ワーレー・モハンマ」
「アラー・フマ・ソアレ・アラー・モハンマッ・ワーレー・モハンマ」
「アラー・フマ・ソアレ・アラー・モハンマッ・ワーレー・モハンマ」
 お祈りが終わったので、僕は質問する。
「これはなんのお祈り?」
 ラジーは答える。
「大変な仕事とか危険な事をする時に祈る言葉なの。今はスリナガルまで危険な道を走るので、みんなで無事をお祈りしたのよ。」
「なるほど。」
 その神秘的な祈りは天に届いていた。祈りを合図に、星が一つ輝き始める。それに続いて次々と星たちが瞬き始めたようだった。ナミカ・ラの頂上から見るその光景は圧巻だった。体が感動で震えはじめる。心と体が空に共鳴しはじめたのだ。

 ワカ、ムルベク、ロッツェン、パスキュンを足早に通り過た。ビッグヒップはまだ調子が悪いらしく窓に顔を突っ込んでいる。僕たちは夜の11時にカルギルに到着した。なんとサダがカルギルに来ていた。僕たちはサダが紹介してくれたレストランに入り、夕食を食べる。
「サダ久しぶり。なんでカルギルに居るの?」
 僕はサダにたずねる。するとサダは
「観光バス運転の交代待ちでカルギルに待機してるんだ。僕もバスでスリナガルに行く予定なのでそこでまた会おう。」
 そう答えると、もう時間だからと言ってレストランを出て行った。僕たちも夕食を食べ終えると車に乗り込みスリナガルに向かう。

 ドラス村には夜中の一時に到着した。ここから先はあまりにも危険な道なので往路と復路で時間制限をしているようだった。ドラス村のゲートが開いて、向こう側に行くことができるのが夜中の三時なので、僕たちはそれまで車中で待つ事にした。その時が来た。三時になったので並んでいた車たちは一斉にドラス村のゲートを通過する。その光景はまさに峠のレースのようだった。夜中の峠を彼らは一目散に車を走らせる。右手には山脈が広がっており、その向こうはすぐにパキスタンだ。十年前のカルギル紛争でこの辺りは激戦地だったのだ。先の紛争の事をいろいろ考えながらこの道を走ると、通過する村々の歴史がまるで走馬灯のようによみがえってくる気がした。途中でスピードを出しすぎてクラッシュしている何台かの車をジミーは難なくよけて走る。ジミーは以前にレーサーをしてた事もあり、運転は速いけれど慎重だった。気づいたときには僕らの車は先頭にたっていた。

Zoji la

チェックポストから見たゾジ・ラ。

 そしてゾジ・ラのチェックポストにたどりついた。ゾジ・ラは峠の名前で標高自体は3500メートルと低いのだが、その位置が曲者なのか、冬は峠が雪で閉ざされていて、長い間通れない時期がある。雪深く、寒く、悪路が続く危険な道なのだ。しかも夜中の通行なので、よりいっそう危険に拍車がかかっている。今は夜中の四時。チェックポストでは僕らより早く到着している車の集団が数珠繋ぎになっている。ビッグヒップがあまりにも気分が悪そうだったので、僕の座っていた助手席と交代をした。後になってこれが大きな間違いだと僕は気づくのだが・・・。そして僕らがチェックポストを通過できたのは、一時間後の五時だった。

Zoji la

夜明けのゾジ・ラ。

 ラダックの話はここまでだ。ここから向こうの世界はラダックではない。でもムスリムの文化つながりで番外編として綴っていこうと思う。

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