Saturday 28 May 2011

33.世界の終わりとチクタン・ワンダーランド。

 一週間程前よりチクタン村では羊や山羊の放牧が始まった。村中の羊と山羊を集めて一人の羊使いの元、牧草を求めて山に分け入るのだが、この季節が始まると夏が終わるまで一日も休む事無く放牧が続くのだ。だから当然村の朝は早くなる。

 僕が朝早くチュルングスで洗濯物を洗っていると下手から怒濤のような複数の動物たちが駈ける音が聞こえてきた時はすでに遅く、彼らを避けるのが精一杯で僕の衣類に沢山の足跡がつく訳だが、そんな事も含めていい朝だと思う。

 そして彼らの後を追って行くとチュルングスの上手深くに入り込み、山の谷は山羊と羊で埋め尽くされ、彼らはさらに奥のシュクパ・ワンチャンに至るのである。夏にはこのヒマラヤ杉の周りは緑で輝き出し、動物たちは杉の周辺を跳ね回るのである。

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 村からの羊と山羊の追い出しも終わり、チュルングスに沿って降りて行くと、何やら左手の方から子供たちの歌声が聞こえるではないか。そう思いながら左手の家の庭を覗き込むと子供たちがコーランを手にして歌っている。話を聞くと子供たちを集めて早朝イスラム学校を民家の庭で借りて開いてるのだと言う。

 聞こえてきたのは天使の歌声だったわけだ。子供たちはメッカの方向を向いて歌っているのだが教えている先生も子供たちなのである。ここでは子供たちが自主的にコーランの勉強会を開いているのだ。





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 夕方近くになると今度はカンジ・ナラの橋の方が騒がしい。そこに向かってみると村の女性たちが全員橋の麓に集まっている。何事かと思い聞いてみると今日仕事を定年退職するマクリーション村の村人がいるので、それのお祝いのために帰りを待っていると言う。

 定年退職を村を上げてお祝いするのだ。さすがにこの風習には驚かされた。カンジ・ナラの上流から何台もの車列が車のクラクションを鳴らしながらやって来る。その中の一台に定年退職をした村人が乗っていた。車は隣のマクリーション村のパーティ会場に着くと早速宴が始まった。賑やかに食事パーティーが始まる。

 宴もたけなわになるとみんなでコーランの一節を読み上げる。そしてそれが終わると解散になった。インドの公務員は58歳で定年になる。今年はチクタン村から他に二人の定年退職者が出るという話も聞いた。

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 家に戻るとおばあさんが泣いていた。そんなに悲しんでどうしたのかと聞くと彼女の話では今日地球最後の日という事らしい。

 そんなばかなと思いつつラジオを付けてもテレビを付けても(テレビがあったらの話だが)今日のヘッドライン・ニュースは地球最後の日の話題で埋め尽くされている。

 はたまたこれは珍妙な話だと思いいろいろ見聞きしてみると、こんな事のようだ。聖書に2011年の5月21日に人類が滅亡すると書いてあるらしい。そんなことをインドのラジオ、テレビがこぞって取り上げていたのである。

 そして彼女はラジオのニュースで流れてるなら、それは本当の事だろうと思い泣いていたのである。

 僕はそんな事はありえないという事を淡々と彼女に語ると彼女は少し安心したようだった。そんな事も含めて僕が迷い込んだそこはチクタン・ワンダーランドなのだ。

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