Monday 23 May 2011

28.ダーチェ村の岩絵。

　ダーチェ村の岩絵のうわさを村人から聞き、そのうわさを確かめるべくダーチェ村に赴く事にした。最近、次々と岩絵の話を聞き、チクタンエリアのどこにでもあるような気がしてきたが、でも岩絵は希少なものなのである。

　このエリアは岩絵がたくさんある特殊な場所というだけで、やはり岩絵が見つかるか見つからないかは砂漠の中の針を探すような希少な可能性なのだ。自転車に乗りダーチェ村へ向かったのだが、途中のサムラ村でも面白い話を聞いた。サムラ村の裏に高い高い丘が広がっている。

　その丘の頂上にサマス・カルという名のサムラ城の跡が残っているというのだ。僕はその丘の頂上付近を目を細めて凝視してみる。なるほど、その城の跡の存在はこの麓からでもしっかり確認できた。そこには城の土台部分だと思われる石積みの跡が空を後ろにして確認できた。

　そして村人は言う。コクショー村にも城の跡が残っているということを朴訥にぽつりぽつりと話だす。またの機会に僕はサマス・カルことサムラ城とコクショー城へ登ってみようと思い、また楽しみのカードが増えた。僕は毎日このカードをシャフルして行く場所を決めているようなものだ。

　今度は途中のトンゴス村でも面白い話を聞いた。ヨクマカルブー村にも岩絵があるという話だ。その少年は真剣な顔で言う。僕が作成した地図のシャカール村からヨクマカルブー村に続く道を指さし、この道沿いにあると言う。去年その道を２度通った事があるのだが、その時はまったく気づかなかった。

　チクタンエリアは手つかずの歴史的遺産がたくさん残っているので、僕はもう何を言われても驚かないような免疫は出来てるつもりだが、こう立て続けに新しい遺産の話が出て来ると、やはり気持ちは高まり頭の中でも歴史の扉がゆっくりと開かれる音がして、文献やインターネットでは決して発見できない希有な歴史的遺産の山脈が扉の向こうには広がっていた。

　トンゴス村を過ぎダーチェ村に差し掛かると、右手のカンジ・ナラに架かる橋が見えて来る。

　その橋を渡り目の前の大きな岩を右に入り、畑とカンジ・ナラの間のあぜ道を歩いていく。畑のカンジ・ナラと反対側には大きな岩山が連なっているのだが、聞いた話によると、このあたりの岩山に岩絵が描かれているはずで、連なっている岩山の麓あたりをなめるように凝視していく。

　しかしそれらしきものは全く見当たらない。一時間ほど探したが見当たらなかったので、ダーチェ村の村人に聞いてみるべく村の深部に入っていく。ちょうど青空教室をやっている学校が見つかったので、その学校の女性の先生に岩絵に事を訪ねると、その先生は岩絵の場所まで案内してくれると言う。

　僕は女性の先生二人と共に岩絵の場所に向かう。先生たちが指し示したのは橋の目の前にそびえ立つ大きな岩だった。この岩は僕が探したときは何も見つからなかったと言うと、先生はちがうちがうと言い、もっと上ずっと上を見てよと言う。僕は岩山の上の方を見上げる。

　すると岩山の地上３メートル付近から上の方までぎっしりとたくさんの岩絵が描かれているのだ。これには驚いた。普通に生活していると絶対の気づかない位置に星空のごとく無数の岩絵が乱舞している。中にはゆうに１メートルを越える大きさの人が腕を広げたような絵もあり、まさに岩絵のプラネタリウムだった。

　僕がどうやって写真を撮ろうか迷っていると先生はどこからかはしごを持ってきてくれた。そのはしごは木製のなかなか安定しないはしごで、長さが短かったので、それを木に引っ掛けて、はしごを上り、木に乗り移り、枝によじ登って岩絵の写真を撮るように進言してくれたが、それでもまだまだ高さは足りなかった。

　僕は木の枝によじ登りそこから写真をとるのだが、枝は大きく揺れるは、カメラは片手で持たなければいけないので、もう片方の手だけで落ちないように枝を掴むのに必死で四苦八苦しながら写真を撮っていると、下で女性の先生たちが僕の必死な形相を見て大笑いしている。

　まぁとにかく写真を撮り終えて（地上３メートル付近の岩絵しか写真は撮れなかったが）先生方にお礼を言い、今度来る時は生徒たちに段ボールいっぱいのお菓子を持ってきますと約束をした。

　僕は一部の岩絵しか見れなかったがまだまだ目が届かない上の方に無数の岩絵が存在していると聞いているので（例えば妊婦の絵だとか）、もしこの地を訪れた学識ある方は、是非ここの岩絵をコンプリートしてもらいたいものです。