Saturday 16 October 2010

3.オールド・ダマスカスを歩く。

 僕たちはウマイヤド・モスクを出て、再びオールド・ダマスカスを歩き出す。モスクの外壁沿いにも古い商店が続いており、そこには多くは木製品を扱った工芸品の店がずらりと並んでいる。観光客は木製品やアクセサリーなどを手に取り品定めをしたり、店主と話をしたりしていた。

 9月のダマスカスの空は限りなく高く、乾いた空気が暑さをそれほど感じさせないでいた。

 今日は土曜日で休日である。イスラム圏の多くは金曜日と土曜日が休みなのだ。一番大切なのは金曜日の休日で集団礼拝の日なのである。簡単に説明すると西暦627年にムハンマドがメッカに無血入城した記念の日として金曜日が休みになっているのだ。ウマイヤド・モスクでの集団礼拝の光景は世界的にも有名で、たまに写真集などで見かける事がある。その壮観さは一見の価値があるので、是非写真集を手に取る機会があったら鑑賞するのもよいだろう。残念ながら今日は土曜日なので、僕はその光景を見る事は叶わなかったのだが。

Umayyad mosque wall




 細くて古い路地を僕たちは進む。しばらくして僕たちは頭が天井にぶつかるほど低く暗く狭い石造りのアーチのアーケードを通り抜けると、それは目の前広がった。レストランだ。名前はベイト・ジャブリ。古い建物で囲まれた中庭がレストランになっており、天井はカーターナイフで切り取ったような四角形の空間から、大きく青空が覗き込んでいる。建物の上階からはたくさんの花や蔦が垂れ下がっており、フロアは客で埋め尽くされて賑やかだ。このレストランの作りは、この中東地域ではよくあるスタイルで、古代ローマからの流れのようだ。昔の豪商の家の作りにこの形が多く、それをレストランとして活用するようになったらしい。このスタイルの文化にはいろいろな逸話が残されており、イスラムの女は古くは外に出る事が許されておらず、この中庭が唯一の外に出られる空間だったそうである。中東の地中海に沿った国々を歩くと、いにしえのイスラムの女が囲われていた建物をよく見かける事がある。それはダマスカスのような中庭であったり、家々の間を結ぶ空中回廊がとらわれの空間であったりとさまざまだ。

Restaurant at Damascus


 ラーマとお姉さんはハーブの紅茶を頼んだ。なんだか甘くエキゾチックな不思議な匂いがした。紅茶の名前を聞いたが忘れてしまった。僕はダマスカスでよく飲まれているレッド・ティーを頼んだ。これは日本で言うストレート・ティーとほとんど同じで、でも味と香りの深みは明らかに違っていた。一口飲むと口の中で花が咲いたように深い味が広がる。のどごしもあきらかに違うのだ。水が硬水だからなのだろうか。中東の空気がそう感じさせるのだろうか。それは分からなかった。お腹はあまり空いていなかったが、シリアで有名な料理を一品頼んでみた。

Kebbeh


キッベという食べ物が出てきた。たぶんこれはレバノンから渡ってきた料理だろう。小麦粉とひき肉と少量の野菜を団子状にして揚げた料理だ。味はいろいろな香辛料がふんだんに使われていて、これもまたすごくおいしかった。多数の香辛料からなる絶妙に絡み合った香りが口から鼻に抜けて行き、羊のひき肉の味とも混ざり合って、よりいっそう重厚でいてさらりとした味わいのある料理に仕上がっている。基本的に中東の料理はおいしいものがたくさんある。シリアのオリジナル料理は少ないようだが、隣のレバノンから入ってきているうまい料理が何百種類とあるのだ。
 
「シリアにはハーブを使った料理が多いのよ。それとオリーブオイル。シリアの丘陵地では多くのオリーブが栽培されていて、その景色はすごく美しく沢山の人を魅了する。あなたにも見せたいわ。」
 そう言うとラーマはキッベを一口かじった。

 僕たちは食事を終えるとまたオールド・ダマスカスを歩き出す。

Alley at Damascus


 絵画がたくさん飾ってある路地に出る。このエリアは芸術家がたくさん住んでいて、ギャラリーを数多く構えていた。パリのモンマルトルのような芸術家の隠れ家がたくさんあるようだった。その通りには写実的な絵から抽象画まで、古いスタイルから現代芸術までのいろいろな絵が道を埋め尽くしており、時折はっとするような絵にも出会えたりする。

Cafe alley at Damascus


 階段脇のオープン・カフェがある通りに出る。カフェには午後のひと時を水タバコ、シリアとレバノンではナルギーレと呼ばれていて一服しながら談笑しているシリア人の姿が多く見られる。ナルギーレとはフレーバーなタバコの葉を熱してでた煙を水にくぐらせてから吸う煙草なのだ。日本ではほとんどお目にかかる事がない煙草だ。
 
 カフェでナルギーレを吸いながらある男が嘆いた。
「中国人はダマスカスにきても絶対にお土産を買わない。」
「どうしてだい。」
「全部中国製だと思っていやがる。」
 と言ったかどうだか・・。

 僕はラーマたちと別れてホテルに戻った。

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