Friday 15 October 2010

2.世界一古い街ダマスカス。

 僕はラーマたちのタクシーに乗り込んだ。シリアのタクシーはイエローカラーのタクシーでダマスカス市内なら200SP以内でどこでも行く事が出来る。すごくアバウトなのだが大体1SPが2円にあたるので、400円以内で市内なら何所でも行ける計算だ。

 ラーマ・マフマッドは将来有望な医者の卵だ。今はダマスカス医科大学に在籍している。ラーマのお姉さんはシステムエンジニアになるべく、学校で日々忙しく過ごしている。二人とも才女でしかも美人姉妹ときている。僕は二人に今日、宿泊すべきベストなホテル(安くて清潔で観光客に人気のあるホテル)を教えてもらったので、このままホテルに向かってチェックインだけすませる事にした。アル・ラビ ホテルに泊まる。このホテルの利点はオールド・ダマスカスにも、銀行などがある街の中心にも近いところだ。部屋はドミトリーで清潔だった。さっそく荷物をおろすと、僕はラーマたちにオールド・ダマスカスを案内してもらう事にした。

 オールド・ダマスカスは東西におよそ1800メートル、南北におよそ1000メートルのダマスカスの東の方に位置する古い城壁に囲まれたエリアで、世界遺産にもなっている。紀元前1500年のころからのものだと言われている。ここはヘレニズム文化やローマン帝国時代の建物の名残がたくさん残っており、それがイスラム文化と融合して、エキゾチックな幽玄さで包まれていたエリアである。有史から繋がっている古い建物がそのまま住居、商店として使われていたり、このエリアの中には古いキリスト教会があったり、古いモスクがあったり、アザーンの声に教会の鐘の音が混ざり合ったりと、彷徨いがいがあるしかも迷ったらなかなか出てこられない、楽しくて不思議な空間だ。

Souq at Damascus




 僕たちはオールド・ダマスカスの前でタクシーから降りて、スーク(市場)を歩く。

 ダマスカスは観光客が非常に多い都市だ。北方からはヨーロッパの観光客。東方からはアジアからの観光客。南方からはアフリカからの観光客。はるか西方からは南北アメリカからの観光客と様々な国からたくさんの観光客が訪れる。なぜこのイスラム圏であるダマスカスがこれほど観光客が多いかと言うと、まずは治安が良い事があげられる。女性が一人で夜に街を歩いてもなんの心配が無いほどの治安の良さだ。そして世界遺産の遺跡がパルミラを筆頭にたくさんあると言う事。最後にシリアの人々のホスピタリティーの高さだ。観光客に非常に親切で一日中、ウェルカムモードであり、そこには打算的な見返りをほとんどの場合要求されない。
 シリアではイスラム教徒が一番多いのだが、キリスト教徒も多数いて共存している。他に小さな宗教もたくさん存在していて、しっかり密に共存している。人種も様々な人々が住んでいて、アラブ人、アルメニア人、パレスチナ人、クルド人、みんなしっかりと共存共栄しているのだ。まさにモザイク国家の理想的な形であると同時に社会主義国家でまれに成功している国の一つであるともいえる。貧富の格差がほとんどない。物乞いは見当たらない(隣国の事情で難民の物乞いはたまにみかけるが)。乞食もいないようだ。
 このオールド・ダマスカスはまだイスラム教がこの地に入って来るはるか昔から存在し、人々が住み続け、そこで商いをして栄えてきた街なのだ。昔から物流の重要な拠点でもあった。北から、南から、東から、海路で西からとここはシャムの王国よりはるか昔から、トルコがシルクロードの重要な拠点なら、ダマスカスはさしずめ世界中の道はここダマスカスに通じているというどこかの国の言葉を借りてもじっても大げさではないほどのグローバルな流通の拠点だったのだ。シリアの宝物が日本の正倉院にねむっていたり、逆もまたしかりなのだ。
 
 スークには沢山の人がいる。観光客やダマスカス市民、商売でやってきた外国人、本当に様々な人たちがひしめいている。いろいろな匂いといろいろな音と路上での売り子の古くから伝わるパフォーマンスなどと共に、凝縮された熱気がアラブ商人の歴史の地層に日々うずたかく積まれて、未だ成長し生き続けている市場なのだ。空間がぐるぐると渦巻いて複雑に絡み合い一匹の蛇の姿に変わり、天高く登って行くような感じがした。

 僕たちは歩き回る。パリのようなカフェの通りがあったり、中東特有のバザールが続いていたり、そして僕たちはウマイヤド・モスクの前に出た。それは驚くほど大胆にして幽玄であり、太陽光とのコラボレーションによって現れる建物の古い質感の上に伸びる影によって、ふと見せるモスクの表情が、たまにきわめて繊細だったりもした。

Umayyad mosque


 ウマイヤド・モスクはメッカのモスク、メディナのモスクに次いで重要なモスクであり現存するモスクでは世界最古だ。もとはキリスト教の教会として使われていた建物を636年にイスラム教がこの地に入ってきた時に改修してモスクに転用したものだ。今は残っていないのだが、始めての神への礼拝施設は3000年前にすでに、この地に存在していたらしい。もちろんキリスト教、イスラム教が入って来るずっと以前の話だ。現在のモスクはローマン、ビザンチンスタイルにイスラムのエッセンスが加わり、建造物的にも神秘性の面からもより深みがある建物空間に仕上がっている。

Umayyad mosque


 僕たちはウマイヤド・モスクの中に入る。中庭は非常に広い。おごそかな雰囲気だろうと思っていたが、子供たちが走り回って遊んでいたり、雑談していたり、ビデオの撮影に夢中なムスリムがいたりと、ここは市民の憩いの場にもなっていた。異教徒の女性は入り口でネズミ男のような格好をさせられるのだが、中にはムスリムの女性の中にもネズミ男の格好をさせられている人もいた。白亜のモスクは天高く青い空に溶け込んでいるようで、中庭のつむじ風がどこから飛んで来たのか数枚の木の葉と遊んでいた。

Umayyad mosque


僕たちはモスクの内部に入る。淡い赤い絨毯が真っすぐ遥か向こうまで続いている。お祈りをしている人たちがいたり、モザイク画を見物している人たちがいたり、聖者廊らしきものを覗き込んでいる人たちがいたり、ここのモスクの中ではお祈りの場だけではなく、観光の場、市民の憩いの場、様々な使われ方をしているのだ。僕もお祈りをし終えると(僕はシーア派流のお祈り方法しか知らないのだが、ここシリアのムスリムはスンニ派とアラウィ派なのだ。)僕たちはウマイヤド・モスクの外に出た。

Umayyad mosque


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