Saturday 29 October 2011

21.トリンコマリーにて。

Sri Lanka


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 慈永祐士僧とダマナンダーと僕はトリンコマリーの中心地よりバスで南に15分ほどのところにあるチャイナ・ベイを歩いている。チャイナ・ベイは厳重に警備されているので、ダマナンダーが中に入れるかどうかを警備の軍人と交渉をしたのだが、やはり入る許可は得られなかった。

 中に入るにはISPS(インターナショナル・ポート・セキュリティ・オフィス)で許可を得なければならないのだ。僕たちは鉄条網の外からその波うち際には誰もいない孤独なチャイナ・ベイの写真を撮る。

 その後近くの露店で聞いた話によると、南に少し歩いた場所に第二次世界大戦時に空襲を受けた石油のコンビナートの跡があるらしいので僕たちは南へ歩を進める。石油会社の門の前につくと、門兵と中に入るべく交渉をしたが、やはりそこも厳重な警備がしかれており入る事は叶わなかった。



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 チャイナ・ベイ沿いの道をどこ行くともなく僕らは歩いている。空は果てしなく青く、空の下を道に沿って敷かれている線路の上で羊たちが遊んでいる。海に面した教会からは南国の風が吹いてくる。僕らは郵便局近くのバス停でバスを待ちとりあえずどこかに移動しようと思った。

 バスを待つこと数分。満員のおんぼろバスはやって来た。しばらくバスは走り、乗っていた少年の表情が騒ぎ出し、あっという間に視界が開けてくると、バスの両側に一気に美しく眩しい海が広がってきたので、僕らはそこで降りる事にした。

 海の縁ではたくさんの露店が出ていたが、観光客の姿は見えない。このゆるいゆるいオフビートの空気に乗って僕たちもゆるりと歩き始める。クジラのようなお腹の午後の船は静かなシエステをむさぼっていて、真っ青な海の波打ち際の砂浜でうつらうつらしている。青と白と緑のコンストラクトは目には眩しいが、心を深く優しく照らす。

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 僕らはトリンコマリーの街に戻り海を見る。白いビーチでは地元の若者がビーチバレーに興じている。これを右に見つつ歩き、左手には様々な国によって使われてきた強固な城壁が続いている。その黒く汚れてしまった石積みの城壁は、長い歴史の戦乱の世を乗り越えて、深いため息をつきつつ膝を崩す老いた軍人の姿に見えてくる。

 城壁をくぐり抜けてしばらく歩き、そして坂を上る。歩き始めるとすぐに強い風が吹き遠くで雷が鳴る。坂の上の雲の下にヒンドゥー寺院が見えてきた。この寺院の名前はKoneswaram。多彩な色彩で彩られたこの寺院は厚い雲の下でも、その存在感は色あせる事なく、数多くの参拝者を飲み込んでいる。

 スワミ・ロックと呼ばれる断崖絶壁に建つ寺院の縁には、多くのヒンドゥーの神様が鎮座していて、それを頭上に雷雲轟かせる黒い雲と足下に荒れる白い飛沫を巻き上げる海を見ながら進む。雨が激しく降ってきたところで僕らはヒンドゥー寺院に駆け込んだ。

 寺院の中は人で溢れかえっていた。祈りの歌。雨の淀んだ匂い。ごった返す人々の熱気。額を赤く塗っているタミル人。全身をずぶ濡れにして駆け込んで来た西洋人。人がおこす風に強く揺らぐ炎。外には瞬時にかつ強烈に光る雷。地の底からゴウゴウと沸き上がってくる雷音。

 地を叩き騒ぎまた悲鳴にも似た雨音。頭上を赤、青、黄、黒、緑、様々な色が入り乱れ、踊り出し、熱狂し、狂乱し、神々は吠え、時間は濃く強く深く膿んで行く。

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 ここはヒンドゥー教の聖地だが、タミル人に混じり、シンハラ人も、西洋人も、アジア人も関係なく、様々な民族が入り交じり、心は反発しつつ融合し、そんなねじれているようで、でもやわらかく包み込むような不思議な空気が、神々の吐息となって一気に吐き出され、全てがまるで和解されたように目の前に広がる。

 そして 血の歴史とか運命とか憎悪とかそんな不安定な要素全てを神々が全部飲み込んだ後に僕は確信するのだ。”ああ、許されたんだ” と。

 このヒンドゥー寺院を出てスワミ・ロックを降りたところにまるで隠れる様にひっそりと仏教寺院がある。僕たちは一晩そこで屋根を借りる事とした。

 今日は土曜日のボーディ・プージャの日。爛熟のヒンドゥー寺院のすぐ下で静かなる祈りが仏陀に捧げられていた。風はやみ、雨は上がり、しんしんと降り注ぐ静謐の夜の中、何本ものろうそくの明かりが闇に揺れていた。

 朝が来た。海が徐々に橙色に染まっていくと、様々な生きとし生けるものが動き出し、万物の濃い影は生命の息吹を吹き込まれたかの様に、色を持ち形を作り始める。城塞は微かな光の中にその淵を浮かび上がらせると、その淡黒き古老は大きなあくびをし、ゆっくりと腰を持ち上げる。

 空気は秋の様相をほのかに感じさせ、寺内には鹿と犬と猫が動き始める。昨日とは打って変わって神々の咆哮も仏の智も感じられず、時は静かにまた漂い始めると、街の営みはゆっくりと回り始め、自然や人の心の中に神や仏も隠れてしまい、昔からずっと変わらない空と海と緑だけがいつものように地球を回しているのだ。

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