2011年10月22日土曜日

15.クルネーガラの祭り。

 黄昏れつつあるクルネーガラの森の中、一台のトゥクトゥクがある祭り会場へ向う。このお祭りはクルネーガラの観光局主催のお祭りであり、三日間に渡り夕暮れ時より夜中まで行われるのだ。会場はすでにたくさんの人たちで埋め尽くされており、大統領のご親族の方々もすでにご到着されていた。

 ケッタラーマ寺よりやって来た僧たちと僕は最前列に座り、今か今かと祭りの開始を待ちわびている。夏の終わりの夕暮れの風にさやさやと揺らぐココナッツの木の葉が一瞬時を止め、それが祭りの始まりを暗示させていた。そして主催者の話が終ると、祭りは唐突に森に響く太鼓の音と共に始まった。

トントントコトコ。ポンポコポン。
ポンポコポン。トントントコトコ。

Sri Lanka






 まばゆいばかりのスリランカの踊りが次から次へと変幻自在に姿や形を変え、舞台上を駆け巡る。歌舞伎でもなく能でもなく神楽でもなく、しかしその全てであるようなスリランカの伝統的な衣装に身を包んだ踊り子たちは、蝶になり海になり空になり風になる。

 蝶たちが舞台を舞うと、海たちがそれを優しく抱き、空たちが静かに騒ぎ、風たちがその間に踊る。沁みてきた夜はその神々たちを遠巻きにしてそれらを闇に染めようか染めまいか躊躇している。スリランカ・クルネーガラの熱くはかなくも長い夜の夢はこうして始まったのだ。

 男たちの頭に載せたつば広の三角形の帽子がちょこまかと動くと美しきシルバーの銅飾りがそれに呼応して鳴る。女たちの銀の髪飾りが夜に光ると、手足は蛇のように艶かしく動き、然るにそのたくらみは神々にしか分からない。

 半裸のたくましき男たちが舞台の上に登場すると、その荒々しい踊りが会場を熱気の渦に包みこむ。お互いに体をぶつけ合い、激しく交互に立ち位置を入れ替え、手を大きく振りかざすと同時に、足を大きく振り上げ、地を大きく鳴らす。

ダンダンダダン。ダダンダン。
ダダンダン。ダンダンダダン。





 スリランカの伝統武術アンガム・ポラが混在しているこの踊りは時に般若のように荒々しく、その内なる雄叫びを瞬間外へと爆発的に開放する。

 飛んでは肘で打ち、飛んでは踵を大きく落とし、飛んでは後ろ回し蹴りが闇を刈る。手に持つ棒は空を切り裂きながら回転し、軽快なリズムを刻みつつ、相手の持つ棒と呼応して乾いた音を闇にたてて鳴く。低い姿勢で相手と対峙すると飛びつき最後にはやはり打ち付ける。

 イギリス統治下にあって抑圧されていた人々は、アンガム・ポラを実践武術に徐々に変えていったのだ。祭りの中では太鼓に合わせてのただの荒々しき舞踏踊りなのだが、これがジャングルの中ではとても有効な武術に生まれ変わる。

 古来イギリス人たちが最も恐れたと言われているこの武術は、時を隔てつつも脈々とその伝統と技は受け継がれていく。僕はこうして近年目にする事が可能になった秘技の数々に圧倒させられているのは、それはただの武術ではなく、スリランカ特有の神々が彼らの背中に宿っているのが見え、悠久の長い時の走馬灯が舞台装置の上に現ると、それがメリーゴーランドの様に回り始めるからだった。

 そして僕をなにやら名状しがたい気持ちにさせるのは、その刹那、武術のようであり儀式のようであるその遥か向こうに、時の哀愁が透けて見えるからである。



 髪が肩よりも長く、その肩に手斧を引っかけ、下半身は布で隠した不思議な風体の男たちが現れる。その男たちは木の枝を真ん中に集めると火を放つ。枝は激しく燃え上がりはせずポツポツとその端に火の明かりを灯していく。

 男たちはその小さく燃える木の枝を中心にして回り出す。何かを口々にぼそぼそと唱え始めると、 男たちは長い髪を振り乱し両手に木の枝を持ちながら踊り始めた。それは踊りと言うよりも地に這い、天に向うる雄叫びを上げる獣の様だった。

 いつしか風が起こり土を舞い上げ、怪しげな夜の触手が彼らを掴み始めると、炎はいささか強くなり、その内の一人の男が頭を上下前後に激しく降り始めた。呪術だ。スリランカ古来より伝わるその呪術は、古い文献にも何度か登場して、海外から渡航してくる者にとっては、畏怖の存在でしか無かったらしい。

 男の体の振動が頂点に達すると、その後ろに立っていた仲間の老人に飛びかかり、力の限り突き飛ばした。その老人は一瞬にして後ろに数尺吹き飛ばされ、頭を地面にしこたま打ちつけ唸っている。飛びかかったほうの男の体は激しく痙攣を起こし、立っていられない状態になり、仲間たちによって支えられている。

 仲間が支えるその体は宙にあり、小刻みに震えると、男は獣のような声で鳴いている。彼方から男たちの姿をライトが炙り出そうとするが、その強烈な逆光が彼らの存在を消し去り、そこから生まれた闇の触手は狂ったようにあたりをのたうち始めた。そして夜は重心を失い地に落ちもがき始める。

 男たちは失神した仲間の回りを取り囲み踊り始めた。口々の呪術めいた言葉を発しながら体を上下に激しく振って踊っている。神々と対話しているのか悪魔と対話しているのかそれは僕には分からない。しばらくすると闇が止まり、風がやみ、辺りの気が凪いでくると、いつもの夜が静かに空に瞬き始める。

 そして失神していた男はゆっくりと体を起こすと仲間たちと踊り始めた。壊れた世界は元に戻り、それはキャンディーを中心に再び動き始め、破壊と創造の神は同じ裏と表である事が分かる。

 たとえ今日が世界の終わりでも、クルネーガラの長い夜の夢は続くだろう。夜を孤高の彗星がいつまでいつまでも流れるるように・・。





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