Wednesday 10 August 2011

1.スリランカと言う名の楽園。

 コロンボの空港に到着したのは、とっぷりと日は暮れて、すでに日付が変わろうとしていた頃だった。夜は温かくも海からの風が心地よく、僕はタクシーに乗リ込むと窓から流れ込むその優しい風を感じながらコロンボの街中に向った。コロンボに続く道路はすばらしくきれいで、インドから来た僕にはそれは衝撃だった。

 車が道路を普通に走れるのだ。インドの道路は日本の道路のおおよそ20パーセントから30パーセントの出来で完成だと見なされる。もちろん設計段階の青写真は完璧らしいのだが途中でいろんな役人の懐にお金が回り、すっかり少なくなってしまった資金で工事が行われるのだ。

 当然のごとく途中の工事過程は大部分がなくなる。僕はインドで道路作る時に測量をしている所を見た事が無い。だから車はまともに道路を走る事が困難だ。インドでは机上は完璧、実践は適当という二分立の理論がそこかしこでしっかりと守られている。

 しかしスリランカは違った。道が路肩までしっかり作られており、道路とそうでない部分がはっきりと分かるのだ。

 昼間の道路工事を見ればわかるのだが、しっかり測量をして、盛り土はきれいに整地されて、日本の道路工法とほとんど変わらない手順を踏んで、その精巧さに少しの愛情で道路を作り上げている。インドからそれほど離れていないこの島の道路の美しさはまさに衝撃的だった。

 コロンボ市内はイギリス植民地時代の古い建物が数多く残っており、そのヨーロッパが薫る所に南国のスパイスが加味され独特の雰囲気を作り上げている。

 僕が泊まる安宿も古いコロニアルな雰囲気を存分に放っていて、中庭をぐるりと古い建物が囲むスタイルは中世の貿易商人たちの過去の風が見え隠れする。そしてレセプションのやたら陽気なスタッフが満面の笑みをたたえて云う。

「何?このホテルに泊まりたいだって、オッケー、ノンプロブレムだ。これがキーだ。トイレとシャワーは共用。ここにサインすればそれだけでダンだ。」

 左の腕に古いポパイの入れ墨をした古老の船乗りが古いレセプションの木のテーブルに肩肘をつき古いパイプから口を離すと僕にこう云う。

「ようこそ。愛と希望と平和の国スリランカへ。そして夢と冒険の国スリランカへ。あなたはきっと後者のスリランカを望んでいそうじゃな。フォッフォッフォッ」

 そして老人はハンチングを目深にかぶり直すと快活に豪快に笑うのであった。

 僕の部屋は最上階にあり、古い木製のドアを開けると、広い部屋にでかいベッドが横たわっていて、天井では大きな羽根が軋みながらゆっくりと空気をかき回していた。

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 夜の街を散策する。宿でいっしょになった日本人旅行者と共にコロンボの街中巡りをする。夜の喧噪はデリーのそれとは違いはんなりと気品がある。バスターミナル近くのマーケットは遅くまでやっていて、人だかりもそれなりにあり、そこには危険よりもゆるい平和が染み付いている。

 行き交う車も声をかけてくるスリーウィラーも群がる蠅に感じたデリーに比べるとそれらは優雅に飛び交う蝶に見えてくる。海からの風が美しい南国の島を演出し、デリーで感じた夜の深い闇はここでは星が描かれた壮大な天井絵に変わる。ホテルに戻るとその古い建物の廊下はぎしぎし鳴りながら僕をむかい入れる。

 ペンキがはげ落ちた部屋の壁も胞子が絡み付くようなデリーの陰湿さではなく、それ自体がトロピカルな南国のイメージを作り上げている衣の一部に見えてくる。僕はベットに倒れ込むとそのまま深い眠りに落ちていく。

 次の日の朝は眩しい太陽が、開け放された両開きの窓より差し込むと、さっそく海風が僕を起こしに来た。僕は眠たい目をこすりつつ、疲れた体をベットから起こす。窓から見えるコロンボの風景からは天を高く青い空に映える植民地時代の建物たちの今も生き続けている鼓動のようなものが聞こえてきそうだ。

 朝食は近くの食堂でパンとコーヒーを取る。とりとめもない食事なのだが、デリーで毎朝路上の店先で名前が分からない食べ物に群がる虫たちを、手で追い払いながら食べた日常の風景は、今となってはそれが非日常に代わり、スリランカの日常の風景がそれにとって代わって入ってくる。

 朝食後、僕はバックパックを背負ってバスターミナルに急ぐ。今から未知なる世界にふたたび飛び込んでいくのだ。クルネーガラ行きのバスに飛び乗ると、たくさんの人たちを飲み込んだその古バスは、お尻を左右に振りつつ、澄んだ青空と眩しい太陽のもと、夢とか希望とかそんなものをもんをたくさん乗せて、砂埃を巻き上げてさっそく出発するのであった。

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3 comments:

  1. SECRET: 0
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    こんばんは!
    コロンボのY.M.C.A.で一緒になった西村です!
    クルナーガラの生活はどうですか?
    写真で見る限りのんびりしてそうでいい雰囲気ですね?
    また、武勇伝楽しみにしてます[絵文字:v-222]

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  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます。
    クルネーガラの生活は快適です。こちらの仕事も山ほどもらってしまって、
    悠々自適かつ大忙しです。また良かったらお会いしましょう。

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  3. SECRET: 0
    PASS: 26abac85550c0056fa3c6023c86d69df
    充実してるみたいですね!
    そうですね!またお会いしましょう[絵文字:v-222]
    また、コメントさせてもらいますね!

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