Tuesday 16 February 2010

16.さよならチクタン村

 僕らは車をチクタン村の入り口に止めると、チクタン川沿いを歩いて遡上して、村の中に入っていく。小さな川を飛び越え、大木と干しレンガ塀の間をすり抜け、まるで森に迷い込んだ小娘のように嬉々として遡上する。
 僕はラジーにチクタン・マスジドまで連れて行ってくれるように頼んだ。最後のチクタン村での時間になるかもしれないので、マスジドだけは見ておきたかったのだ。川の途中を右にそれて路地に入っていく、そして分岐を右に行って”あれ、そっちってラジーの家じゃないか?”と思った矢先、ラジーは自分の家の前で立ち止まる。それから家のまわりをぐるっと回って裏に出ると、そこにはチクタン・マスジドが凛として建っていた。
「わお、ラジーの家の真裏にあるなんてまったく気づかなかったな。」

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ラジーの家の屋根から望む、
チクタン・マスジド。
家のすぐ裏にあるのだ。


 チクタン・マスジドの写真を撮ろうと思ったが、少し厄介な事に直面した。マスジドの正面にレンガ塀が迫って来ていて、塀の内側からの撮影だとカメラと被写体の距離が近すぎて、僕のカメラではマスジドの全体像がカメラのフレームに入りきらないのだ。するとラジーが
「塀を乗り越えて畑に入り込んで撮影したらどう?私が見張っていて、誰かが来たら合図をおくるから。」
 僕は次の瞬間には塀を乗り越えていた。畑を縦断して、シャッターを切って、また塀を乗り越えて戻って来た。

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チクタン・マスジド。
山をバックに佇むその姿は、遥か昔の姿と同じ姿なのだ。
古いマスジドは村人によって何度も何度も修復と上塗りが繰り返されている。
チクタン村の人々の心がここにはある。


 そうしているうちに子供たちが集まってくる。

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ラジーの家に戻ると、ラジーのお兄さんサダの奥さんカチジャが、牛を引いて家に戻って来た。

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なかなか言う事を聞いてくれない牛。
��分ほど格闘して牛舎に入っていく。


 ラジーはチクタン村は季節的には春がきたばかりなのだと。もうすぐマイニャスの花が村中に咲き誇って春が頂点を迎える。そしてチクタンエリアの村々は畑に蒔いた種が発芽して、いっきに緑一色になる。そんなチクタン村は本当に素晴らしく、美しいと言う。僕はそんな村を想像して、いつか見てみたいと思った。
 僕はティータイムにチクタンブレッドとミルクティーを頂く。
”ビスミル ラ イル ラマネー ラヒム”
 ラジーから習った言葉。食べる時、仕事をする時に唱えるムスリムの言葉だ。
 そして僕は唱える。
「ビスミル ラ イル ラマネー ラヒム」

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チクタンブレッドとミルクティー。
チクタンブレッドは非常に固い。
もちろんそのまま食べてもうまいが、
普通は飲み物に浸して食べる。
ブレッドはほどよく柔らかくなり、
甘みも染みて、よりいっそうおいしく頂ける。
口の中で花が咲いたような気がした。


 僕はラジーの写真を撮る。ムスリムの世界では女性の写真は御法度。必ずと言っていいほどレンズからは逃げる。たとえ頼んだとしてもまず高い確率でノーと言われるのだ。国によっては顔を見る事もゆるされないのだ。わりと戒律が厳しいこのエリアでもそれは同じだ。

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ラジー(左)とラジーの友達。
ラジーありがと!!


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祈りをささげる親子。
ラジーのお兄さんサダの奥さんカチジャとその娘ザヒール。
暗くなってきたリビングの中で、祈りを捧げている。


 ラジーの家にチェックポストのポリスが、僕とジミーを呼びに来た。暗くなってきたからチクタンエリアを早くでなければならないので僕らは早々と車に乗り込んだ。最後にラジーが聞いてくる。
「今度はいつチクタン村に来れるの。来年?」
「宿泊できるパーミットを取得して一週間以内にまた戻ってくるよ。」
 そう言うと僕らはチクタン村を後にした。

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