スリナガルは日曜日にはほとんどの店が閉まるのだが、しかしメインストリートでは、毎週大規模なフリーマーケットが開催される。生活に必要な物は大体出品されているが、中でも衣類が多く、そのほとんどは中古だ。それはパキスタン製だったり、中国製だったり、中東諸国からの物であったりする。そして各ブースを多くの人たちが取り巻き、商品を手にとって品定めをしている。
その人混みの中に混じって歩いている一人の少年が見える。彼の年は十歳ほどで、服は何日も洗っていないようで少々汚く、長らく櫛を通したあともない髪は所々ぴょんと跳ね上がっているところに小さなハンチングを被っている。そんな彼は口笛を吹きながら人だかりの出来ているブースに近づくと、一人のナップサックを背負っている青年に背後から近づく。人々が行き交う揺れに合わせても、彼は青年のナップサックに手を振れつつあたりを入れ、小型のナイフでサクッとそこに切れ込みを入れるのと同時に、すでに彼の手の中には青年のサイフが収まっている。そして仕事が終わると風のように人混みの中に消えてゆく。
ジェラム川の小さな支流のある川辺は葦で覆われており、そこに数多くの掘っ立て小屋が並んでいる。壊れかけた小さな木製の橋の下に壊れかけた小さな木製の掘っ立て小屋が建っている。ジェラム川を真っ赤に染める夕暮れ時、あのスリの少年がその壊れかけた小屋に戻ると、彼の妹が待っていた。
「夕食はアイスクリームとパンに串焼きの肉だ。」
妹はアイスクリームに飛び付くと言う。
「イルファン、シュクリア(ありがとう)、おいしそうなアイスクリームと肉。」
「クルスン、今日は意外な収入が入ったので特別だ。」
オイルランプの回りに集まる虫たちを手で払いのけながら串焼きにかぶりつくとイルファンはそう言った。夕食後、土くれにシートを敷いただけの寝床に入ると二人は眠る。