Saturday, 30 July 2011

3.カシミール女とモスク。

 生粋のカシミール料理はお世辞抜きに美味い。実際この半年の間で胃に納めた料理では一番美味かった。カシミールの米はほっかほかのつややかに立っているやつで、それに銀のひしゃくでチキンスープをすくって絡ませる。チキンのカレーにはスパイスを惜しみなく使い、カシミール独自の風味はほんのちょっとサフランの香りがする。 ...

Friday, 29 July 2011

2.ハバカダルの人々。

 午前中はダル湖北部にあるユニバーシティ・オブ・カシミールに出向く。  大学のゲート前の警備は厳重で小銃で武装した軍がセキュリティー・チェックをしていた。苦労してゲートを抜けると広大な敷地が広がっており、ダル湖を背にその奥には緑が深く美しいカシミールの山々が水面にその姿を現しては消え、消えては現すを絶え間なく繰り返していた。  大学の図書館の身分証明チェックも厳重で、僕は学生証なんかはなかったが、軍は留学生と勘違いしたのか、窓口...

Thursday, 28 July 2011

1.カシミーリ。

 朝の倦怠の中、アパートのたてつけの悪い窓から顔を出すと、正面にダル湖から吐き出された胡乱な気分に沈んでいる深緑によどんだジェラム川が流れているのが見える。昼は37度、夜も30度を下らない部屋の中は蒸し暑く、床には何匹もの虫が夜を越せずに死んでいた。  下の階のテラスよりむっちり太った管理人のおばさんがずり落ちそうになった頭のスカーフを直しながら声をかけてくる。 「あんたラダッキかい?ここらへんではみない顔だね。」 「姉さん、...

Wednesday, 27 July 2011

53.シャシー・ツォ。

 山深いヨクマカルブー村よりさらに深山に分け入ると、気高い山々に囲まれ慎ましい程ささやかな緑と花に恵まれた小さな村サンドゥ村に辿り着く。サンドゥ村の一番奥よりヒマラヤの嶺々に続く羊使いたちがつけた道が天に向って走っている。僕はその道を登っている。  僕は背中にテントとクッキング用品を背負い、相棒は背中に家庭で使う鉄のかたまりのでっかいガスボンベを背負っている。この道のずっと先にある山の頂きには美しい湖があると云う。その湖の名はシャ...

Tuesday, 26 July 2011

52.ガルクン村。バタリク村。ツェルモ村。

 柔らかい朝の光が差し込むガルクン村を歩いている。最初のマニ車を通り過ぎるとそこから長い長いガルクン村の小径が始まる。ガルクン村の中心には木の陰より朝日が射す水路が流れており、水路に小径が寄り添っていて、小径には柔らかい光にかざされて杏の木の葉の陰が静かに揺らいでいる。  少し歩くと女が水路で洗濯をしている。その若き女の水路の淵を見つめる眼差しは強く、洗濯物から顔を上げると、僕のジュレーの言葉にはにかみながらもジュレーと返すが、は...

Monday, 25 July 2011

51.コクショー村。

 コクショー村に到着したのは昼の太陽が傾きかけた頃だった。相当疲れているようだった。その証拠に僕は村の入り口のところのゴンパが頂上に立っている岩山の麓に息を切らせつつ大の字で寝転がって太陽と曇り空を見ている。チクタン村からの徒歩での太古の山道の18キロはけっこう長く感じた。  朝出発してコクショー村に到着するまでに5時間かかっている。コクショー村は標高が高く、空に近く、そしてこの地区に移り住んだ始めてのダルド系民族の村でもあるのだ...

Sunday, 24 July 2011

50.ヒマラヤの谷のチクタン城。

 午前の透き通る光を背中に浴びるチクタン城(チクタン・カル)は、その肌に刻む光と影が夏の木の葉の向こうで優しく揺れている。チクタン城がそびえる岩山は急勾配であり、現在城までの道はない。  だが今その麓から仰ぎ見ると大勢の職人が岩山を削りつつ石を担いで登っていき、それを使って城までの新しい道を作っているのが確認できる。ヒマラヤの谷が騒いでいる。  そして僕はチクタン城に登る。がれ石や浮き石に足を取られないように一歩づつ登っていく。...
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